言い出しづらくも尋ねると、彼女はドスのきいた声で答えた。


「浮気してたのよ。彼が」


パンチのある言葉。思いもよらぬ展開に絶句すると、ルキもなんと声をかけたらいいか分からないようだ。


「浮気ですか?ゴルゴーンの姿を見ても愛してくれる彼がそんなことをする人だとは思えませんが…」

「私も初めはそう思ってたわ。でもここ一ヶ月、彼は仕事が忙しいと言って全然会ってくれなくなったの。なんの仕事をしているのかを聞いてもはぐらかすし…絶対、魔物と付き合うのが嫌になったんだわ」


話を聞く限り、お互いがすれ違ってしまっているような気もするが、メディさんは浮気だと信じて疑わないらしい。

深くため息をついた彼女は、ぽろぽろと涙をこぼす。


「昨日、あの公園に“大事な話がある”って言われて呼び出されたの。だから私、別れ話をされるんだと思って、つい…」

「つい、彼を石にしちゃったと…?」


無言で頷くメディさん。

“つい”で済まされる問題ではないが、恋人と別れたくないという女心が原因だと知って責められない。

よっぽどマオットさんのことが好きなんだろう。

生きる世界も、流れる時間も、生まれ持った力も全て異なるふたり。種族を超えた恋愛をすることにどれほどの覚悟がいるのか私には想像もつかない。

だが、他人事だとは思えなかった。好きな人を想う気持ちは、きっと、人間も魔物も同じだ。


「もう一度、マオットさんとお話ししてみてはどうですか?」

「それは無理よ。彼から別れようなんて言われたら、生きていけない」

「じゃあ、彼が浮気をしていないという証拠があれば安心できますか?」

「え…?そ、そりゃあ、まぁ…」


その言葉に力強くメディさんの手をとった。両手で握ると、戸惑うように数回まばたきをする彼女。


「わかりました!私が浮気ではない証拠をなんとか掴んでみせます!」


屋敷に高らかな声が響いた。

そんな中、ルキは気怠げに頭を抱えたのだった。