忘れた感情が湧き上がってきたように、再び目頭に涙を溜める彼女。

少しの沈黙の後、ハンカチを差し出しながらおずおずと尋ねた。


「あの…昨日、一体何があったんです?もしかして、人間界に行きたくないというのもマオットさんのことが関係しているんですか?」


静まり返るリビング。

やがてハンカチを受け取って涙を拭いた彼女は、ぽつりぽつりと語り始めた。


「私、カフェ巡りが趣味でね、去年行きつけの店で出会って付き合い始めたの。はじめはゴルゴーンだってことを隠していたんだけど、お酒を飲んで酔っ払ったときにバレてしまって。でも、マオットはあなたと同じように私を認めてくれたわ」

「とてもいい人なんですね、マオットさんは」

「えぇ。毎日が幸せだったわ。退勤した後は毎日彼の元に通って一緒に過ごしたの。マオットは私にとって一番大切で、大好きな人だった」


過去の話のようにまとめた彼女。

しかし、その悲しそうな瞳は、まだ未練があるように思える。


「なら、どうして昨日あんなことを…」