「あなたのお店のパティシエールに?私が…?」
彼女は提案が予想外だったようだ。たしかに、いきなり人間界のレストランで働いて欲しいなんて言われたら誰だって驚くだろう。
困惑する彼女に説得を続ける。
「立ち退きを撤回させるためには、どうしてもメディさんの力が必要なんです。…昨日、《暗黒堂》に行った友人がテイクアウトしたものを頂きました。あなたの作ったケーキは見た目も華やかでとても美味しくて、ぜひスカウトしたいと思ったんです」
しかし、全力で口説くものの、彼女の表情は暗い。
「ダメよ、人間界で働くなんて。私の正体を知ったら誰もお店に来なくなってしまうわ」
「どうしてそう思うんですか…?」
「人間は、私を好きになってくれないからよ」
彼女の返答に、ふと疑問を感じて呟く。
「恋人のマオットさんも人間なんじゃ…」
次の瞬間、メディさんのまとう空気が変わった。
きつく眉を寄せた彼女は、ギロリと私を睨む。
「あなたに何がわかるの?どうせこの姿を見たら拒絶するくせに…!」



