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翌日、レストランをケットとヴァルトさんに任せて魔界にやってきた。久々のゴシック調の街並みに胸が高鳴るが、今日はカメラで遊ぶ余裕はない。
真剣な面持ちでルキと共に《暗黒堂》へ向かうと、告げられたのは悪い知らせだった。
「メディさんは今日お店に来てないんだ。朝から電話をかけても繋がらなくてねぇ。無断欠勤なんて初めてだよ」
パティスリーの主人に話を聞くと、メディさんはここ一ヶ月ほど元気がなく、ついに先日、店を辞めるとまで言い出したらしい。元々しっかり者で愛想が良い性格なだけに、店の仲間たちも心配しているようだ。
住所を聞いて自宅を訪れると、郊外に位置する屋敷はカーテンが閉まっていて、今日の日付の新聞がポストに入ったままだった。外に出た形跡もない。
「メディさんは、まだ寝ているんでしょうか?」
「いや。ローウィンの情報によると彼女は夜行性ではない。部屋に引きこもっているだけだろう」
玄関のベルを押すが、中から返答はない。扉を叩いて呼びかけても物音すらしなかった。
まさか、中で倒れているんじゃ…、なんて嫌な予感がした数秒後、ゆっくりと玄関の扉が開いた。
現れたのは色気のあるワンピース姿の若い女性。ウェーブのかかった綺麗な赤い髪が目を惹く。その黄金の瞳は、一晩泣きはらしたように痛々しかった。
姿を見れて安心した一方、私は慌てて頭を下げる。
「突然訪ねてごめんなさい。私はミレーナといいます。メディさんにお話ししたい事があってここに来ました」
彼女は静かに息を吐き、額に手を当てながら目を閉じた。
「ごめんなさい。今は誰かと話す気にはなれないの。帰ってくれる?」
憔悴しきったような彼女。その姿に心が痛み、日を改めようかと思った瞬間、頭の中で彼女の姿と昨夜の記憶が重なった。
「あれ、あなたは昨日の…?」



