魔界レストランをバズらせます〜転生少女の立ち退き撤回奮闘記〜



「ヒビでも入ったら大変です。とりあえず、私の寝袋に入れておきましょう」


頻繁に自然の絶景を求めて旅をしていた私は、キャンプ用の寝袋を持ってきていた。大人用のサイズなのでなんとか石像を包めたが、なんともシュールな状況に言葉が見つからない。

ヴァルトさんがぎこちない空気を察して話題を変える。


「そういえば、ミレーナちゃん達の食い倒れ旅はどうだったの?いいアイディアは浮かんだ?」

「はい。お客さんを呼び込むために、昼の時間帯はスイーツを売りにしたカフェを開くことにしました。ルキ御用達の情報屋さんに、新たな従業員候補として、人間界と繋がりがあるお菓子職人を探してもらおうと思っています」


なるほど、と頷いたヴァルトさんは「俺もこうやって見つけられたんだね」と苦笑している。

そして、思い出したように情報屋へ依頼をするルキはやはり容赦がない魔王様で、「私は人材派遣所では…」と呟くローウィンさんに有無を言わせず電話を切った。

数分後、調査内容が届く。魔界の情報屋は相変わらず仕事が早い。


「ヒットした名前はメディ。《暗黒堂》という魔界の洋菓子店でパティシエールとして働いているそうだ。人間界にも足しげく通う姿が目撃されているらしい」


パティシエールということは、女性だ。人間界に通う趣味があるのだろうか?それとも、何か他に理由が?


「《暗黒堂》なら今日行ったよ!すごい人気店だったから、並んでテイクアウトしてきたんだ。ほら、このケーキ美味しそうでしょ?」


ケットが白いケーキ箱を差し出した。

見た目は宝石のようにきらびやかで、ひと口食べるとふわふわのスポンジと甘すぎないクリームが絶品である。

これをメディさんが作ったのだとしたら、彼女は相当の腕前なのだろう。ぜひウチで働いてもらいたい。

ルキは、ケーキと一緒に買ってきていたプリンを口に運びながら告げた。


「ミレーナ。明日、《暗黒堂》に向かうぞ。口説き文句でも考えておけ」