しばらく連れられるがままに歩いていると、石造りの道がのびる町へとたどり着いた。

しかし、そこは想像よりも活気がなく、異様な静けさに包まれている。陽が沈んだ時間だからというわけではないらしい。

まだ二十時だというのに、明かりが灯っている家は一軒もなかった。


「不思議な町ね…、まるで夢の中にいるみたい。こんなに沢山の建物があるのに、人の声が聞こえないわ」


すると、ケットは小さく息を吐いて苦笑する。


「この町は、ちょっと訳ありでね。まぁ、怖いところじゃないから安心してよ」


普通ではない光景だが、隣を歩く彼が可愛らしい少年だからか、恐怖心や警戒心は無かった。

それどころか、時が止まった町の景色に好奇心がうずき出している。

やがて、路地を抜けた先。曲がり角の向こうにランプの光が見えた。人の気配に胸が高鳴る。


そのレストランは、ひっそりと暗闇に佇んでいた。

赤い洋瓦の屋根に、お洒落な木枠の壁。唯一明かりが灯るその建物は、夜のとばりに包まれた町でひときわ美しく映えている。

私は、込み上げる感情に突き動かされ、思わずレンズを構えた。


「ミレーナ。それはなに?」

「これは、カメラよ」

「かめら?」

「そう。素敵なレストランだから、写真を撮りたくなっちゃって」