「お姉さん、注文いいですか?」

「はい!ただいま!」


わいわいと賑わうディナータイム。

私はメモを片手に目まぐるしく店内を駆け回っていた。


開店から一ヶ月経った頃。ようやくお客さんの数が一定に落ち着いてきた。

都市からの直通機関車やニコッターでの宣伝が功を奏したのか、魔界レストランは巷で名前がささやかれるほどの知名度となっており、まだ繁盛しているとまでは言えないものの、予約の電話もたまに来るようになっていた。

このまま営業がうまくいけば、半年後に国一番の有名店になるのも夢じゃない。

そんなことを考えながらお客さんを見送っていると、カウンターから艶やかな声が聞こえてきた。


「わぁ、美味しそうなケーキ!コウモリの形のチョコレートがついてるわ」

「可愛いお客さんに俺からのサービスだよ。お代はお嬢さんの血を頂こうかな。日付が変わる頃に会いに行くから、ベランダの鍵あけといてね」


飛び交う黄色い声。

軟派なシェフを慌ててバックヤードに連れて行き、早口で詰め寄る。


「ヴァルトさん!お客さんを口説かないでください」

「口説いてないよ。営業トークだから」


にこやかな彼は相変わらずだ。

カウンターに戻る背中を、ジトッと見つめていると、ひとりの女性客がヴァルトさんに尋ねた。


「ねぇお兄さん。どうしてこのレストランは夜しかやっていないの?ランチメニューもあればもっとお客さんも増えるんじゃない?」

「あぁ、それはねぇ、シェフの俺がヴァンパイアで、店主の魔王様が悪魔だから。魔物は朝弱いの」

「あははっ!すごーい!こんなに設定しっかりしてるお店初めて来た〜」

「コンセプトレストランって、面白いね〜」