すると、その言葉を聞いた彼は、やっと私がこの町に偶然たどり着いた旅人だということを理解したようだ。

改札を出て、町へと続く道を歩く彼は、私の手を繋いだまま隣に並んだ。


「なるほどね。まぁ、理由がどうであれ、この町に来てくれて嬉しいよ!なんせ、数ヶ月ぶりのお客さんだからね」

「数ヶ月ぶり?ずいぶんとご無沙汰なのね」

「そうそう、昔は栄えてたらしいんだけどね。ここ一年はパッタリ。あまりに人が来ないから、ご主人様がイライラしちゃってさ」


話を聞くと、彼はレストランの従業員らしい。いつも駅のベンチで町を訪れる客を待ち、レストランへの案内役をしているそうだ。

彼の言う“ご主人様”は店主であり、ふたり暮らしをしながら店を切り盛りしているようだが、店主をご主人様と呼ぶのは初めて聞いた。

不思議に思って尋ねても「言葉通り、飼い主とペットだよ」だなんて言われた。一体どんな関係なんだろう。


「そういえば、どうして駅に降り立った私がレストランへのお客さんだと思ったの?」

「簡単な話だよ。この町にお店はウチしかないからね」


ペルグレッド国の外れに位置する町には、宿泊施設や商業店はないらしい。列車の本数も一日に二本だけなのが頷ける。

その時、少年はふと思い出したように私を見上げた。


「そうだ、名前を聞くのをすっかり忘れてた。僕はケット。君は?」

「ミレーナよ」

「ミレーナかあ、いい名前だね」


ニコニコする彼は、久しぶりのお客に満足気だ。楽しそうなケットにつられて気分が高揚してくる。