こんなひとけのないところに、ひとりで寝転んでいるなんて。
やや警戒しながら見つめるが、思ったよりもそのシルエットは小さい。すやすやと気持ち良さそうな寝息を立てているのは、十歳前後だと思われる少年だった。
漆黒のサラサラな髪に、しなやかな体つき。その寝顔は天使のように可愛らしい。
思わず立ち止まり、近くでまじまじと見つめる。
すると突然、気配を察したように少年のグレーの瞳が開いた。私を認識した途端、ひどく驚いたようにベンチから飛び上がる。
「あっ、ごめんなさい!悪い人じゃないの…!怖がらないで」
目をまん丸した少年は、言葉を失ったようにこちらを見ていた。
しかし、その数秒後。頬に赤みがさし、満面の笑みを浮かべる。
「お客さんだ!やっと来てくれた!」
ん?お客さん?
驚く声をあげる間もなく、ベンチを立った少年に手を取られて歩き出した。興奮冷めやらないようすの彼は、早足でホームを進んでいく。
「ちょっと待って?どこへ連れて行くつもりなの?」
「どこって、レストランに決まってるよ!僕、お客さんが来てくれたら案内しようと思ってずっと待ってたんだ」
明るい少年の声に戸惑う。
こんな辺鄙な田舎町に、レストランがあったなんて。
そういえば、乗り過ごしてこんな時間まで寝ていたこともあり、夜ご飯を食べ損ねていた。ぐぅ、と鳴ったお腹に、少年はケタケタと声を上げる。
「あははっ!君、お腹空いてるの?」
「うん。実は、降りるはずの駅を寝過ごしてしまってここまで来たの。帰れなくて困ってたんだけど、レストランがあったなんてラッキーだわ」



