「ミレーナ。帰ったら、さっそく次の仕事に取りかかるぞ」
「次の仕事?」
「人間と魔物が共に暮らせる町づくりのマネジメントだ。もちろん協力してくれるだろ?」
力強い言葉。艶やかに微笑んだ彼は、私の手に指を絡める。
断る気もないが、断らせる気もないらしい。
立ち退き撤回物語は区切りを迎えた。だが、ここで終わりではない。ルキと私の前にできた新たな道が途切れることはないのだから。
「もちろんです。私が、国で一番笑顔が溢れる町にしてみせます!」
高らかに宣言する声は、あの日のセリフと重なった。
『私がこのレストランを国で一番の有名店にして、立ち退きを撤回させてみせます!』
ふたりの脳裏に浮かんでいたのは、きっと同じだ。
さっそく人間界へ向かおうとソファから立ち上がろうとする私。しかし、ルキは手を引いて再び腕の中に閉じ込めた。
擦り寄るような仕草に胸が鳴る。
「もう少しこのままふたりでいよう。まだお前に触れていたい」
心が通じ合った後の悪魔は、ちょっぴり素直になるらしい。照れながらも頷くと、二度目のキスを奪われた。
ヒトと魔物。
その隔たりを越えて手を取り合い一枚の写真に笑顔で並ぶ未来は、きっと、そう遠くないのだ。
ー完ー



