「悪く思わないでね。ご主人様、ああ見えてすごく優しいから」
「え…?」
外を眺めていたケットが、視線をこちらに向けた。
「さっき、ミレーナに“帰れ”って言ったのも、きっと国の役人とのイザコザに巻き込まないようにするためだろうし。客もぱったりだったはずのこの店にまだ出入りしてる人間がいるなんて知られたら、迷惑をかけるかもしれないから」
「とても私を心配しているようにはみえなかったけど…?」
「ふふ。ご主人様は素直じゃないだけだよ。ライアスさん以外の人間には心を開いてないみたいだからさ」
やがてスープを飲み干したケットは、ちびちびとスプーンを口に運ぶ私に苦笑する。
「無理して食べなくてもいいよ。少しだけど、店にはビスケットとかもあるし。お代は要らないから」
「ありがとう、ケット。でも、食べているうちにクセになってきたわ。なんだか体に良さそうな感じがする」
そう言うと、ケットは穏やかに目元を緩めた。
「ミレーナは優しいね。今日はここに泊まっていっていいから。あ、でも、僕は猫の姿で寝るから人間用のベッドを持ってなくてさ。ご主人様の部屋ならちょうどいいサイズの高級品があるんだけど…」
「あ、いいの!気遣いありがとう。泊めてくれるだけで十分だわ。レストランのソファを借りてもいい?」
「もちろん!」
にっこりと笑う彼につられて微笑む。
色々あったけど、ここに来れてよかった。
こうして、私はケットの言葉に甘えてレストランの柔らかなソファに体を沈めたのだ。



