「すき…か」
考え込むような仕草に、不安になる。もしかして迷惑だった…?
ショックを受けた空気を察したらしい彼は、優しく撫でる。
「そんな顔をするな。ただ、分からなくなっただけだ」
「分からない?」
「あぁ。人であるお前と悪魔の俺では、意味合いが変わるかもしれないと思ってな」
たしかに、それは一理ある。
自分だけを見てほしい、心で通じ合いたい。そういう気持ちを抱きながら相手に触れる生き物は人間だけ。
魔物に恋愛感情があったとしても、ひだまりのような温かいイメージとは少し違うかもしれない。ヴァルトさんやメディさん、リム君は人間と関わる中で愛しさという感情に気づき、恋を知った。
ルキは静かに言葉を続ける。
「例えば、ひとりで立ち寄った店に美味い料理があったとする。俺はそれをお前にも食べさせてやりたいと感じ、誘って来ればよかったと思うはずだ。料理をカメラに収めて美味しそうに頬張るお前を見ると、心が満たされ穏やかな気持ちになる。…ヒトがこの気持ちを恋だというなら、俺はお前に恋をしているのだろう」
黙って顔を上げた。
澄んだ藍色の瞳は綺麗で、まっすぐ私を映している。
「教えてくれないか。俺を好きだと言ったお前と、俺の気持ちは同じなのか?」
ふたりの声以外、何も聞こえない静かな部屋。
答えを待っているルキは、急かそうとはしなかった。
沈黙の後、ゆっくりと彼のシャツを掴んだ。軽く引き寄せて一瞬だけ頬にキスを落とす。
見開かれた目はひどく驚いている。
「…私の好きは、こういう“好き”です」
数秒固まった後、ふわりと笑う彼。溢れでる想いを噛みしめるような声が聞こえた。
「そうか。どうやら、お前と俺の気持ちは同じようだ」



