書類をまとめて足早に部屋を出る大臣と情報屋のふたり。
魔王全開の震えるトーンに思わずツッコむ。
「良いんですか?お話の途中だったのに」
「構わん。あいつらは数百年待たせても死なないが、ミレーナは別だ。お前との時間をとる方が優先に決まっているだろう」
至極分かりやすい理由に、つい納得してしまう。それと同時に、私とルキが生きる時間は比べ物にならない程違うのだと実感した。
気が遠くなるほど長いルキの人生の中で、一瞬でも同じ時を刻めていることが奇跡に近いのだ。
ふたりきりの空間。
急に緊張感が増す。
何も言わずに見つめてくるルキの真意が読めず、視線を彷徨わせる。どんな話題を投げかけようかと考えていると、沈黙を破ったのは向こうからだった。
「ミレーナ。ひとつ言っておきたいことがある」
「なんでしょう?」
「お前、俺に嘘をついたな?」
思いもよらぬセリフに困惑した。
嘘?どういうこと?これでも正直に生きてきたつもりだ。ましてや、ルキに嘘をつくなんてあり得ない。
「記憶にありませんが…一体何のことです?」
するとその時。目の前に差し出しだされたのは二つ折りにされた紙だった。
その筆跡は見覚えがある。
“好き”
うっ!あ、あれは…!!
呼吸を忘れた。
体に走った衝撃は言い表しようがない。
言葉を失う私の前で、ルキは表情ひとつ変えないことがさらに追い討ちをかけていた。



