ほっと胸を撫で下ろすと、やがて廊下の先に煌びやかな装飾の施された扉が見えた。
荘厳な城の中は、どこも息を呑むほど美しいデザインだが、目の前の部屋は明らかに他よりも造りが豪華だ。
あそこがルキの自室なのだろう。
「失礼します、兄様。お客さんをお連れしました」
丁寧に案内してくれたケットさんは、ノックをして声をかけている。「入れ」と短い返事が聞こえ、懐かしい声に胸が鳴った。
扉の向こうは、黒を基調とした家具が並ぶ落ち着いた雰囲気の部屋だった。
ソファに座り対面している三人がこちらを向くと、藍色の瞳を丸くしたルキが私の名を呼んだ。
「ミレーナ?」
予想外の客人にひどく驚いたらしい彼。
送り届けたキーラさんが去った後、躊躇しながら部屋に入り、ルキ達の元へ歩み寄った。
アラク大臣は、もう私を殺そうとは思っていないらしい。受け入れたように頭を下げられ、慌ててお辞儀を返す。
大臣の隣に座るのはダンディーな雰囲気の男性だ。初めて見たが、彼が噂の情報屋…?ローウィンさんは“ミレーナ”という名前を聞き、散々人探しを頼んできたレストランの関係者だと察したようだ。
「これはこれは。あなたがミレーナさんでしたか。どうも、ローウィンです」
「はじめまして…!色々お世話になっております。ちゃんとお礼もせずにすみません」
「いいえ。今後もどうぞごひいきに」
にこやかに挨拶を交わしていると、ルキの声が耳に届いた。
「どうやってここに来たんだ?人間はひとりでは魔界に入れないだろう」
「ヴァルトさんに送ってもらったんです。ルキに伝えたいことがあって」
「伝えたいこと?」
首を傾げた彼。
周りに人がいるがこの際仕方がない。
息を吸い込んで、まっすぐ伝える。
「魔界に帰らないでください!ルキと会えなくなるのは嫌なんです…!」



