はっ!とした。
ルキの本職は魔界の王だ。
ライアスさんとの約束でレストランを守ることにした彼が、ダイニングバーの経営経験があるヴァルトさんに店を任せるのは理解できる。
ただ、そうするとルキが人間界に滞在する理由がなくなってしまう。
立ち退きは無事に撤回され、もう町が取り壊されることはない。
『少なくとも、この町のダム建設が白紙になり、立ち退きが撤回されるまでは戻るつもりはない』
たしか、アラク大臣が魔界に戻るよう説得した時、ルキはそんなことを言っていた。
まさか、本当に魔界に帰るつもりなの…?
魔王の仕事は忙しくて、レストランに来ることはなくなるかもしれない。《レクエルド》が唯一私とルキを繋ぐ場所だったのに、二度と会えなかったらどうしよう。
嫌だ。このままさよならなんてしたくない。
「ヴァルトさん、お願いがあります」
「うん?」
「私を魔界に連れて行ってください」
魔物なら誰でも自由に魔界に出入りする力を持つ。
ヴァルトさんは、その言葉を待っていたかのように微笑んだ。
「わかった。ちゃんとお話ししてくるんだよ」



