その時、ケットが思い出したように声を上げた。
「そうだ。ミレーナが帰ってきたら起こしてってヴァルトさんが言ってたよ。二階で寝てるから、声かけてあげて」
「二階?昼間からいるなんて珍しいのね。ディナーの仕込みをしていたの?」
すると、彼はぶんぶんと首を横に振る。
「ううん。ヴァルトさんはご主人様から店主を任されたらしくて、経理をまとめるのが忙しいみたい」
店主を任された?
その意味が脳に伝わるまで、数秒かかった。
ルキがいないことに今更気づいた私は、素早くバックヤードに駆け込む。
ルキが寝泊まりしていた部屋をノックすると、低血圧なヴァルトさんが扉を開けた。
「ふわぁ…、おはようミレーナちゃん。やっと帰ってきたんだね」
「おはようございます。あの、えっと、聞きたいことがたくさんありまして…!」
動揺する私にくすくすと笑った彼は、部屋に招き入れて電気ポットで紅茶を入れてくれた。
出会った頃、屋敷で味わったものと同じ香りに癒されていると、ヴァルトさんは心中を察したように話しだす。
「ミレーナちゃんが聞きたいのは、魔王様が店主を俺に預けたことだよね?実は、つい一昨日の話でさ。俺の方こそ、ミレーナちゃんに事情を聞こうと思ってたんだ」
「いえ、私も何も教えてもらってないんです。ずっと帰省していましたし…ルキはどこにいるんですか?」
「最近はずっと魔界だよ。もしかして、魔王に戻るつもりなのかな」



