ケットは、遠い目で窓の外に広がる真っ暗な町を眺めた。
「《レクエルド》は、もともとライアスさんっていう人間のおじいさんがやっていたレストランでね。ちょうど三年前に、人間界に視察にきたものの食事が口に合わないせいでお腹を空かせて倒れたご主人様を、ライアスさんが助けてくれたんだ」
「へぇ…、ライアスさんはとても優しい人だったのね」
「うん。その時、ライアスさんは先が長くなくて、レストランを閉めようとしていたんだ。でも、思い出のある大切な店を守りたいっていう願いを聞いて、ご主人様は彼が亡くなった後に店を続ける約束をしたんだよ」
あの冷酷な魔王様がそんな約束を?
にわかに信じがたい話だったが、ケットの語った過去は本当らしい。
「だけどご主人様はあんな調子だから、もともとさびれていた町に、さらに横暴で冷酷な魔物がいるって噂が広まって…ついに去年、国から強制立ち退きの話が出たってわけ」
なるほど。
この町の過疎具合に拍車をかけたのはあの魔王様だったのか。
全てのつじつまが合い、この町の置かれた状況を理解した私はなんとも言えない切ない気持ちになった。
たぶん、魔王様に悪気は一切ないのだろう。
私がスープを食べた時、彼は安心したような顔をしていた。まっすぐに味の感想を求め、興味深そうにこちらをみていた。
もしかしたら、約束を果たすどころかレストランを廃業に追いやってしまったことを気にしているのかもしれない。
まぁ、あの暴君全開の態度は愛想も可愛げもないが。



