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「ミレーナさん!忘れ物はないですか?」
「うん。大丈夫。送ってくれてありがとう、ムジナ」
一ヶ月後。
さびれた町の駅に降り立つ。
年始に帰省すると、両親は例の会見を見ていたらしい。魔物達に関する隠し事をしていたことは怒られたものの、半年間の出来事や私の気持ちを受け入れてくれて胸のつかえがおりる。
和やかな団らんの中、おせちを食べに来ていたシグレに王に掛け合った件を尋ねると「知らないな」なんてはぐらかされた。だが、立ち退き撤回を成し遂げたことを褒めてくれた彼は、やっぱり優しい。
こうして、積もり積もった思い出を話しているうちに時が過ぎ、予定よりも長く地元に滞在してしまった私は、ようやく幽霊機関車で魔物達の町に帰ってきたのだ。
お客さんを迎えに行く機関車を見送ると、太陽の光に照らされた駅が視界に映る。
初めてきたときは、ベンチにケットが寝転んでたんだっけ。
寝過ごして帰れなくなった後、お客さんだと勘違いしたケットにレストランへと案内された夜。あれが、すべての始まりだった。
住人の声がしない町は相変わらずだが、ゴーストタウンは怖くない。
やがて路地を抜けると、赤い洋瓦の屋根とお洒落な木枠の壁が見えた。一ヶ月離れていただけなのに、すごく懐かしく感じる。



