「待ってください!」
ダメかと思った瞬間。レストランの扉を蹴破って入ってきたのは予想外の人物だった。
紫紺の髪に藍色の瞳。ルキとそっくりな顔立ちの青年は、魔王の代理を務める弟キーラさんだ。
慌ててルキ達とアラク大臣の間に割って入り、懇願するように見上げる。
「アラク大臣を責めないでください…!僕が兄様の代わりをうまくできないから…。こんなことをさせてしまったのは、僕のせいです」
ルキだけでなく、大臣までも目を見開いた。
「何をおっしゃるんです、キーラ様…!全ては私の仕組んだことです。あなたのせいではありません」
「ううん、いいんだ。僕が頼りないのは自分が一番分かっている」
キーラさんは穏やかに答えた。
強く聡明な魔界の王。そんな兄の背中を目指してきた彼は、自らの力が及ばないことをずっと責めていた。
一同が見守る中、キーラさんはまっすぐルキに告げる。
「兄様。この一件は見逃していただけませんか。アラク大臣はこの三年間、政治に不慣れな僕を支えてくれました。彼にいなくなられては困るのです」



