ルキが一歩距離を縮めた。
力加減などなくアラク大臣の胸ぐらを掴む彼に、震えが走る。
「自分がやったことをわかっているのか」
「わ、私はルキ様と魔界のためを思ってやったのです…!あなたが王に戻らないのなら、国をまとめ上げることなどできません」
「黙れ。お前は俺の逆鱗に触れたんだ。少々野放しにしすぎたようだな。お前にもう用はない」
怒りに震える藍色の瞳は、私の知っているルキではなかった。
腰を抜かす役人達と、衝撃的な光景に声が出ない様子の王。
ダメだ。ここで魔物の悪い印象を植え付けてしまえば、それこそ大臣の思うツボ。非常で残忍な魔王の心を取り戻す上に、大事なレストランが血で汚れる。
「代われ、ルキ。この男の始末は私がやる。長いこと生きてきて、ここまでハラワタが煮え繰り返ったのは初めてだ。一思いにケシ炭にしてやる」
ルキの肩を掴んだのは、意識を取り戻したマクさんだ。
激情家はもう止められないらしい。
魔界でもトップクラスに強い魔力を持つふたりをおさえられる魔物は、ここに誰もいなかった。
こんな形で終わりを迎えてしまうの?
やっと悲願が叶ったのに。



