“王に直接掛け合った若い騎士団員の男”
それを聞いて、真っ先にその人物の見当がついた。
シグレだ。
自分ひとりの力ではどうしようもないと知っていた彼が、力のある人物を説得してくれたのだ。
役人達は、きっと事前にシグレの動きを知っても、末端の騎士団員だと甘くみて目もくれなかっただろう。
私の兄貴分を侮ったのは、奴らの最大の敗因だ。
数分後、レストランの扉が開く。高貴なローブをまとった男性は、ペレグレッド国の王だとすぐにわかった。
ひれ伏す役人達に白い髭を蓄えた王が声をかける。
「もう良い。ここまでされては認めざるを得ないだろう」
ゆっくりこちらへ歩み寄った王は、私に向かって笑いかけた。
「あの機関車はいいな。魔物の力を借りて国を発展させる未来が見えたような気がしたよ」
王はムジナの幽霊機関車に乗って来たらしい。超特急で移動が可能な上に事故が起こる心配がない交通機関は人間界にはない文明の力だった。
ルキに向き直った王は真剣な瞳で言葉を続ける。
「私はこれまで、民を守ろうと、凶暴で邪悪な印象だけで魔物を受け入れなかった。だが、それは分かりあおうとしていなかっただけなのだとようやく気づいたよ。魔王様は私が思っていたよりもずっと寛容なお方らしい」



