刺のある言い方。
冷たい声のトーンに体が震える。
言われてみればその通りだが、もう少し歩み寄ってくれてもいいのに。
すっ、と椅子にケットを下ろした魔王様。
「店のことは頼んだぞ、ケット」
エプロンを外してそう言った彼に、つい声をかける。
「どこへ行くんですか?もう、外は真っ暗ですが」
「町に役人が潜んでいないか偵察に行くんだ。奇襲をしてこようものなら、こっちから仕掛けてやろうと思ってな」
物騒なセリフ。
魔王様の目は本気だった。
「だ、ダメですよ!理不尽な立ち退きを迫られていると言えど、争うような真似をしてはいけません!話し合いとか、もっと平和的な解決を……」
するとその瞬間、嫌悪に尖った藍色の瞳が私を映す。
「うるさい。お前に何がわかる?この店を守るためには役人を始末するのが一番早い。口を出すな小娘」
身の毛がよだつような低い声。
何も言い返せない私を一瞥し、彼は夜の闇へと消えていった。
きっと、逆鱗に触れてしまったのだろう。急に首を突っ込むような真似をして失礼だったのは分かる。でも、あんな言い方をされては少し傷つく。
「ごめんね、ミレーナ。ご主人様、人間のことあんまり好きじゃないから」
ぽん!と少年の姿に変わるケット。
落ち込む私を覗き込んだ彼は、苦笑して続けた。
「あのね。ご主人様がこの店から出て行かないのは、前の店主との約束を守るためなんだ」
「約束…?」



