私は、ケットを抱く男性に視線を向けた。
まさか、この人も猫になれるのか?
少年のケットが子猫サイズなら、彼はだいぶ大人な猫…それかライオンのような別の生き物?
すると、私の心中を察したらしいケットが、尻尾を揺らしながら口を開いた。
「ご主人様は猫にはなれないよ。魔物の中でも特に強い魔力を持った生粋の“悪魔”だし、なんたって魔界の魔王様だから」
「はい?」
つい、思考が止まった。
ケット・シーの次は悪魔?それに、魔界の魔王様だって?
予想を遥かに超える肩書きに言葉を失う。
しかし、脳が情報を処理しきる前に男性がギロリとこちらを睨んだ。
「何か文句でもあるのか」
「いえ、滅相もないです!」
この高圧的な態度。傍若無人な振る舞い。
間違いない。この男は人間も魔物も恐れ慄く魔王だ。
ケットが、ご主人様と呼んで慕っていた理由が今ならわかる。
「あの、どうして魔王様がこの町に?ここは魔界ではないでしょう?」
悪魔がわざわざ人間界に来て、さらにレストランの店主になるだなんて不自然だ。
すると、魔王様はケットを撫でながら表情ひとつ変えずに言い放つ。
「お前には関係のない話だ。食べ終えたら早く帰れ」



