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ディナータイムが終わった夜。十時を回った店内で、私はテーブルを拭いていた。ソファに座り、売り上げを計算しているルキとふたりきりだ。
ケットやヴァルトさん、メディさんは、気を利かせてバックヤードに向かい、戻る気はないらしい。
この状況がすでに恥ずかしいのだが、せっかくの粋な計らいに、おずおずとルキに近寄った。
「ルキ。隣に座ってもいいですか?」
「あぁ。構わない」
人間界の紙幣の計算にも慣れ、手際よくまとめる彼はいつも通りだ。
やはり、意識しているのは私だけ。
「あの少年は、無事に折り合いつけられたのか?」
沈黙を破るように尋ねられ、はっとした。
「はい。リム君はエスターちゃんを見送ってすぐに彼女の家へ手紙を届けに行ったんです。お母さんはとても驚いていたそうですが、中に入っていた写真と手紙の筆跡を見て信じてくれたってリム君が言っていました」
ご家族は初め、現実味のない出来事が受け入れられなかったようだが、全てを説明したリム君の誠実さと手元の証拠に納得してくれたらしい。
娘が亡くなったことは一ヶ月経った今でも乗り越えられずいたものの、楽しそうに笑う姿と育ててくれた感謝の気持ちがこもった手紙に胸を打たれ、最後は「届けてくれてありがとう」とお礼を言ってリム君を見送ってくれたそうだ。



