足取り軽やかにキッチンへ向かったケットは、スープ皿を持って戻ってきた。
店主の作るグロテスクな料理に慣れているようで、いただきます、と手を合わせる表情は満面の笑みである。
スープを一口すくう彼に、私は会話の続きを持ちかけた。
「あの、立ち退きの理由って一体何が原因なの?」
「あー。それはね、ちょっと言いにくいんだけど…」
と、その時。
スープを口に運んだ彼が、ぴくんと肩を震わせた。
「ひゃっ!あちぃっ!」
きゅうっと顔をしかめるケット。
舌を出して唸る姿に目を見開く。
それは彼の声に驚いたからではない。私の視線はケットの頭に釘付けだった。
「おい、耳でてるぞ」
店主の低い声に、ケットは動きを止めた。
漆黒の髪から覗く立派な猫耳。いきなり現れたそれは偽物にしては毛並みが艶やかで、ふるるっと揺れる動きは滑らかだった。
言葉が出ない。
すると、隣から立ち上がった男性が軽々とケットを抱き上げた。少年の体は、術が解けるように光に包まれる。
まばたきの瞬間に男性の腕におさまる姿形が一変し、店主の低い声が耳に届いた。
「立ち退きを迫られる理由。…それは、俺たちが“ヒト”じゃないからだ」



