聞いたら食欲が失せそうで、つい首を振る。
躊躇しながらも思い切って口に運ぶと、それは想像通りの味だった。
ま、マズい…!信じられないくらいマズいわ!!
つい口元を押さえて目を閉じる。
ゴクリと飲みこむものの、後味も最悪だ。料理が苦手と言っていたが、これは苦手というレベルを遥かに超えている。一種のテロだ。
近くのテーブルから椅子を持ってきた男性は、私の隣に腰掛けて、じっと様子を伺っている。
「どうだ?食材にこだわり抜いた特製スープだ。口に合うか?」
「く…、クセがあるというか、初めて食べる味です」
危ない。
つい、“くそマズい”だなんて口走るところだった。
そんなことを言おうものなら、先程の鋭い眼光で睨まれ、問答無用で追い出されていたことだろう。
なんとか食べ進める私に、店主は興味を示しているらしい。
頬杖をつく彼は、自分の料理を食べるお客が珍しいのだろうか。綺麗な顔が近くで見つめてきて落ち着かない。
これはお客さんが来ないのも頷ける…、だなんて失礼なことを考えていると、目の前のケットがぐぅとお腹を鳴らした。
一日中あの駅でお客を待っていたのなら、ろくに食事もとっていないのだろう。
「ケット。お腹が空いているなら一緒に食べない?スープはたくさんあるようだし。お客さんだとか従業員だとか、私は気にしないから」
「いいの?やったあ!ありがとう」



