扉の開く鈴の音が聞こえ、隣に影が落ちた。

並んでシグレの背中を見送るのはルキだ。


「後悔はしてないだろうな?」

「もちろんです。…私は必ず、《レクエルド》を不当な圧力から守ってみせます」


心からの決意は揺らがない。

星空の下、ひんやりとした秋の空気が頬を撫でる。しばらくの間ふたりで立っていると、あることを思い出す。


「ルキ。助けに来てくれてありがとうございました。まだ、ちゃんとお礼を言えていませんでしたね」

「礼など必要ない。お前が無事ならば、それでいい」


さらりと告げられた言葉に胸を打たれた。シンプルで飾り気のない真っ直ぐな思いが心が届く。

たくさん心配させて迷惑をかけたはずなのに、ルキは私の無防備さを責めようとはしなかった。


「なんだか、不思議な気分だ」

「不思議な気分?」

「ほんの少しだけ、お前があの男に説得されて帰ると言い出したらどうしようかと考えていた」


隣へ視線を映すと、綺麗な横顔が映った。


「俺は自分で思っていた以上に、お前とこの先も共にいたいと願っていたのかもしれないな」


風が辺りを吹き抜けた。

夜空に輝く月に照らされたルキのシルエットは、普段なら絶好の被写体だと胸躍らせていたことだろう。

ただ、今は違う。

寄り添うように並ぶ姿は、誰にも見せたくない。私だけの目に映していたい。

これはなんという感情なんだろう。名前を付けてしまえば、ふたりが少しずつ築き上げてきた関係が大きく変わってしまう気がした。