次の瞬間。勢いよく棺桶の蓋が蹴飛ばされた。月の光が差し込むと同時に、待ち望んだ彼の姿が目に映る。
助けに来てくれたのはルキだ。呼吸は乱れていて、いつものような余裕のある表情ではない。顔を見て極度の緊張から解き放たれたような彼は、しゃがみ込んで体を抱き起こしてくれる。
手足を縛る包帯が丁寧に解かれ、角ばった長い指が頬を撫でた。それはまるで、探し人が目の前にいることを確かめるような仕草だ。
「どうしてここに…」
「お前が俺の名前を呼んだからな」
ルキは目を逸らさずに、頬を伝う涙を優しく親指で拭ってくれる。
その時、藍色の瞳が震える指に気付いた。
「どうした」
青ざめている顔に驚いた様子の彼。震えが止まらない私がいつもと違うと察したようだ。
ダメだ。気持ちが悪い。
死んだ時の光景が頭にこびりついて離れない。一度開いた記憶の箱の蓋は、簡単には塞がらなかった。
「ミレーナ。どうして欲しい?」
優しくかけられる声。
不安そうに覗き込む彼は、真剣な瞳で見つめている。
「俺はお前に何ができる?」
うまく声が出ないまま、ぎこちなく手を重ねた。弱い力で、すがりつくように触れる。
「…少しだけ、このままいてください…」



