手足を縛られたまま押し上げるものの、重い蓋はビクともしなかった。ゴブリンが数匹がかりで持ち上げていた代物だ。ひとりの力では自由に扱えないのだろう。
自力では出られないと悟った瞬間、体が震えた。
狭くて孤独な空間。身動きが取れない暗闇の中。カメラを片手に遺跡へ行った運命の日。落盤事故に巻き込まれた感覚がよみがえる。
“怖い”
奥底にしまい込んでいた前世の記憶に、呼吸が乱れてうまく息ができない。
異世界に転生してから、暗く狭い場所がトラウマになっていた。
初めにそのことに気がついたのは、シグレとかくれんぼをして押し入れに身を隠した時だ。それからは押し入れに近づけなくなった。
死ぬ間際、目に焼き付いた闇。助けを呼んでも誰にも気付かれない孤独と絶望。後悔と寂しさが込み上げたことを今でも覚えている。
指が震えて声が出ない。
出して
お願い
誰か来て
そう叫びたいのに、体が言うことを聞かなかった。
ここは、魔界の森の中。乱立する木々の葉の形から、マクさんの住む森とは別の区域らしかった。運ばれてくる途中に民家はなく、都市からも離れている。つまり、私の存在に気付く者はひとりもいないのだ。
いつの間にか、涙が溢れる。
ずっとこのままだったらどうしよう。二度とあのレストランに帰れないのだろうか。きっとみんな、急に姿を消した私のことを心配している。
もう一生会えない?
脳裏をよぎるのは、藍色の瞳の男性の姿。ぎゅっと目を閉じると、無意識にその名前を口にしていた。
「…助けて、ルキ…!」



