「もしもし、おねえさん」
その時、背後から声をかけられた。
振り向くと、小さなシルエットが目に入る。緑色の肌に尖った耳。随分とリアルな仮装だ。モデルはゴブリンらしい。
ちょうどゴミを捨てるために店の裏手に回ってきていたこともあって辺りに人影はなく、お家の人とはぐれた迷子かもしれないと察した。
しかし、心配になって声をかけようとすると、明るい鈴のような声が聞こえる。
「トリックオアトリート!」
投げかけられたハロウィンの決まり文句。
どうやら、お菓子をねだりに来たようだ。期待に目を輝かせる姿が可愛らしい。
「ごめんなさい。今、何も持っていないの」
期待に応えられなくて残念だが、美味しいスイーツがたくさんあるテーブルまで案内してあげよう。
だが、そう思った瞬間、あどけない少年の瞳が鈍く光る。
「お菓子を持ってないの…?なら、いたずらしかないね」
いたずら?
雰囲気が一変した瞬間、桃色の煙に包まれて、むせ返るような甘い香りが立ち込めた。
動揺して短く呼吸をすると、体の中に入ってきたのは得体の知れない空気。嫌な胸騒ぎと同時に視界が真っ暗になる。
なに…!?何が起こっているの?
混乱して頭が働かない。だんだん思考も鈍くなっていく。
やがて、体の力が抜けた私は、崩れ落ちるように意識を失ったのだった。



