力強く腕を引かれて足が動いた。必死に抗おうとするものの、シグレの力には敵わない。
このままじゃ、本当に強制帰宅させられる…!
だが、それを制したのは他でもないルキだった。逆の手を掴み引き止めるように強く握ったルキに、シグレは威嚇するように睨みつける。
「離してください。まだこいつを利用するつもりですか?」
「利用ではなく協力だ。勝手に連れていくのは許さない」
ルキの迷いない声がレストランに響いた。
「俺は、ミレーナが出ていきたいと言うのなら引き止めたりはしない。だが、そうでないのなら話は別だ。今さら手放すものか」
シグレはその言葉が予想外だったようだ。ルキの真剣な眼差しに、冗談ではないことを察したらしい。
しかし、未だ警戒を解かない彼は、魔物の存在を受け入れきれない様子である。
「すみませーん、ドリンクの注文いいですか」
テラス席から聞こえたベルに素早く駆けていくケット。
重々しい沈黙が途切れ、シグレはゆっくりと私の手を離した。
「営業が終わるまでは待ってやる。話はその後だ」
ぽん、と頭を撫でてそう告げた彼は、背を向けてレストランを出ていった。お客さん用の椅子ではなく店の外にあったワインの空樽に腰掛けている。
レストランの仕事に影響がでないよう気を使ってくれたようだが、説得して連れ帰る気持ちは変わらないらしい。



