ド真面目に返答してしまうルキを止めると、ここは任せろと言わんばかりのケットが笑みを浮かべて踊り出た。

立派な猫耳と尻尾が見える。


「みてみてお兄さん!今日は、僕みたいに魔物の仮装をすると割引になるんだよ。猫耳が恥ずかしかったらミイラなんてどう?包帯を巻くだけだから簡単だよ」

「お、おい。ちょっと待て。手足を縛る必要があるのか!?」


どこからか持ってきた包帯を手に、無邪気な少年のフリをして動きを封じ込めるケット。このままぐるぐる巻きにして外へ連れだすつもりらしい。

多少強引だが、この際仕方ない。おおごとになる前に一刻も早くシグレを店から出さなくては。

しかし、なんとか誤魔化しきれると思われた次の瞬間。小柄な少年に手加減しながらも抵抗するシグレが、もつれたままケットの尻尾を踏みつけた。


「ぎゃっ!痛いっ!」


悲鳴とともに、ぼん!とケットの姿が黒猫に変わる。とっさに腕で受け止めたシグレは、何が起こったのかも理解できない様子だ。腕の中でグレーの瞳をぱちくりさせるのは紛れもない猫。

ヴァルトさんもメディさんも絶望の表情で頭を抱える。


「び、びっくりしたでしょ?それ、最新のマジックなの!人間が子猫になるイリュージョンで…」


顔を引きつらせながらなんとか苦しい言い訳をするものの、ケットを床に下ろしたシグレは冷ややかな表情で私の手をとった。


「帰るぞ、ミレーナ。お前を危険なところには居させられない」