ルキよりも魔王らしい悪人ヅラに背筋が震えた。

ダメだ。長年の付き合いで、私の思考は全て読まれている。もう逃げ場はない。

おずおずとマントから出ると気まずい空気に包まれた。


「お前、俺に情報が伝わらないように、おふくろさんに口止めしていたそうだな。急に姿を消して、どれだけ心配したと思っているんだ」

「ごめんなさい。挨拶もせずに地元を出たことは謝るわ。でも、これには深い事情があってね。私はレストランのマネジメントに力を貸しているだけなの」


すると、彼は思いもよらぬ発言をする。


「このレストランが置かれている状況はだいたい知っている。城でも公共事業部の役人達が騒いでいたからな」


シグレは騎士団員として働いていた。つまり、所属は違えど城に勤めていることになる。ダム建設の内部事情を知っていてもおかしくない。

彼は、疑念のこもった瞳で見つめた。


「噂だけではとても信じられないが、ここには横暴で攻撃的な魔物がいると聞いていた。それは本当なのか?」


言えない。

噂の暴君は隣にいる魔王様のことだとも、あなたを囲んでいる従業員は、皆この世界の住民ではないということも。

ちらりと店内へ視線を向けたシグレは怪訝そうに続ける。


「あの大きな棺桶はなんだ?レストランにしては不自然だと思うが」

「な、長椅子!団体客用の長椅子よ!ほら、ここはコンセプトレストランだから、内装にもこだわっているの」