思わずカウンターから出てくるメディさん。

ケットに連れられて窓からこっそり外の様子を窺うと、彼の言う通り二十代後半くらいの見知らぬ女性と話すルキの姿が見えた。

嘘…!

接客でも自分からは滅多に会話に参加しないルキが、あんなに長い間話しているなんて信じられない。


「ふーん。魔王様も隅におけないね。ミレーナちゃん、邪魔してきちゃいなよ」


ディナーの仕込みをしていたはずが、面白そうな匂いを嗅ぎつけて、いつのまにか覗きに合流していたヴァルトさんまでもがそんなことを口走った。

嫉妬深いタイプのメディは、自分と重ねたかのようにメラメラと瞳に炎を宿している。


「そうよ、ミレーナちゃん。強気でいくべきよ。“その女、誰?”って」

「だから、私とルキはそういう関係では…!」


と、次の瞬間。

さらさらと何かを書いた紙を女性から受け取るルキ。その場にいた全員が目を疑った。


「あれって連絡先!?ご主人様、モテモテだ!」

「受け取っちゃうのはマズいなぁ。さすがに俺でもフォローしきれないよ」

「ミレーナちゃんがいながら何やってんのよ…!今すぐ破り捨てて!」


好き勝手言い出す彼ら。しかし、騒がしい三人をなだめる余裕はない。

何故だかわからないが、あんなにすんなりと連絡先を受け取るルキにショックを受けたのは確かだ。

私は、ルキと打ち解けるまでに時間がかかった。初めから友好的に迎え入れられたわけじゃない。

だから、ふたりで出かけるのも躊躇しないほど心の距離が近づいた今は、人間の中ではライアスさんの次くらいにルキに認められたと思っていた。

こんな簡単に、他の誰かが心のテリトリーに足を踏み入れることを許すなんて…。

だが、今何が一番信じられないかと聞かれたら、それは、予想以上に衝撃を受けている自分自身だ。