これはまずいな。


早くここから離れないと。



「じゃあ私はもう行くよ。ローズ、また後で!」



未だにジトーッとした目を向けてくるローズにそう言って、私はくるりと踵を返す。


しかしそこには。



「見つけたぞリオ。」


「うわっ、ルーカスさん...。」



鋭い目を光らせて私を見下ろす、特殊護衛団の騎士団長、ルーカスさんの姿があった。


サラサラと靡く漆黒の髪に、整った綺麗な顔。


ルーカスさんは背が高いため、必然的に見下ろされる形になって圧がすごい。


美形な人が怒ると怖いって聞いたことがあるけれど、本当だったんだ。


ていうか、なんでばれた?


ふとローズの方を向けば、その手には何やら見たことのないスイッチが握られている。



「これ、騎士団長様からこのお城の使用人全員に渡されたものです。リオ様を見つけたらすぐ押すように、と。」


「そのスイッチが押されたら、俺が持つ端末に信号が送られてくるんだよ。」



な、なにそれ....。


開いた口が塞がらないとはこの事だ。



「私は珍獣か何かですか...?」


「似たようなものだ。...ったく、いつもいつも手を掛けさせやがって。」



ルーカスさんはため息をついて、私の首根っこをおもむろに掴む。


ぐえっと変な声が出た。


そんな私に構わず、ルーカスさんはそのまま歩き出す。



「クスクスクス...リオ様、行ってらっしゃい。」


「はは...行ってきます...。」



肩を揺らして楽しそうに笑うローズに、私は力なく手を振ることしか出来なかった。