「おはようございます,先生」
 瑠花は普段通り,礼儀正しく俺に挨拶を返した。前日に釘を刺したことをちゃんと覚えていたようだ。
「おはー,センセ。……どしたの,そのカッコ?」
 一方の江畑はというと,ある意味普段通りの砕けまくった言い方で俺の服装にツッコミを入れた。
「ああ,コレか? いやな,スーツだと老けて見えるらしいから」
 俺はその日から,カラーシャツに黒のデニム,パーカーという服装に変えていた。
「ふーーん? さては瑠花に言われた?」
「違うよ,日奈! わたし,そんなこと言ってない!」
 面白がる江畑に,瑠花が慌てて抗議した。
「森嶋は何も言ってないよ。俺が勝手に気にしてるだけだ」
「そうなの? あたしはてっきり,可愛い彼女に言われたからだと思ったけど。――にしても若作りだねえ」
「俺はまだ若いっつうの。二十五だからな」
「あれ? そうだっけ?」
「つうかお前,早く教室行けよ。俺は森嶋(かのじょ)と大事な話があるから」
 江畑にしてみたら,(てい)よく追っ払われたように感じただろうか? 「へいへい,おジャマ虫は先にいくわ」と言ってとっとと退散していった。