「だからね,今のわたしの進路は,精一杯生きること」
 なんだか健気(けなげ)だった。進学でも就職でもなく,「生きること」が進路なんて。
 彼女は長くても秋までしか生きられなかった。だから,どちらも無理だったのだ。
「そっか……」
 それ以上に,この時の俺に何が言えただろう? 大風呂敷(おおぶろしき)を広げたところで,無駄な希望はかえって彼女を絶望させるだけだった。
「でも,ケイちゃんが見てないところでは死にたくない。わたしの最期は,ケイちゃんに見届けてほしいから」
 ネコは,大事な人に最期の姿を見せない。でも,彼女はネコじゃない。人間だから,自分の死を俺に見届けてほしかったのだ。
「今から"死ぬ"なんて言うなよ。まだ五ヶ月は生きられるんだろ?」
「うん……。ゴメン」
 俺は涙が溢れそうになるのをこらえるように,悲しみを怒りに変換したような感情を瑠花にぶつけた。
 彼女はその時泣いていただろうか? 運転中で助手席を見る余裕がなかった俺は,その瞬間の彼女の表情を今も知らない。