ザリン――。

足下で音がなった。

今まで感じていたアスファルトの平坦な固さとは明らかに違う、靴底に伝わるごつごつした感触。

砂利か。

耳を澄ますと、微かに水の流れる音が聞こえる。

河原、いや待てよ。微妙に磯臭い――と言うことは、汽水か。

頬にあたる太陽の光線の感じからすると、もう夕方だろう。

俺は素早く、現在地の候補を脳内検索した。

「ほら、突っ立ってないで跪けや!」

後手に縛り上げられている俺を、男が怒鳴り声を上げて強引に跪かせた。

膝にごつごつと砂利がめり込んで、鋭い痛みが走る。

ちっ。

人が大人しくしていれば、好き勝手にやりやがって。

「もう良いでしょう。目隠しを取っても」

男にしては少しか細い、トーンの高い勘に触る声。その声に俺は聞き覚えがあった。

「高島義一、黒幕はお前だったのか」

目隠しを外された瞬間、飛び込んできた脳天を焼くような鮮烈な色彩の眩しさに、思わず目を細める。

案の定、高島のカマキリ面を見付けて、俺は笑いの衝動に駆られた。ボスカマキリとその手下、総勢合わせて7人。

ご大層なこった。

「可笑しいですか? 笑っていられるのも、今のうちですよ?」

高島の声に促され、手下の一人が背後から一人の人間を引き出した。

「う~~っ! ううっう!」

「美咲!?」

口にガムテープを貼られ縛り上げられている、セーラー服の美少女は誰かと思いきや、なんと美咲だった。俺は思わず吹き出してしまった。

バカかこいつら。自分で悪魔を呼び込んでおいてそれに気付かないなんざ、おめでたいとしか言いようがない。

「な、何が可笑しい! この女がどうなってもいいのかっ!?」

「美咲、いつまで弱い子ぶりっこしてるんだ? 早いところ片付けてくれ!」

ブチン!

俺のセリフに、縄の切れる小気味よい音が重なった。

「アイアイサー、ボス♪」

美咲の嬉しそうな声が、こいつらの葬送の合図。

1時間後。

綺麗に縛り上げられた犯罪組織の黒幕とその手下が、とある河原で警察に逮捕された。

その功績の影に、潜入捜査官の俺と世界初のアンドロイド警官・美咲の、たゆまぬ努力があったことを知る者は、誰もいない。
 ―終劇―