「翔子にパス、回していくぞ!」

「ええっ、なんでっ!?」

なるべくみんなの邪魔しないように、隅でチョロチョロしていようと思ったのに、真悟のセリフでそうもしていられなくなった。

「いいから、行けっ!」

ポンとボールをパスされ、思わず金縛りになる。

バシン!

すかさず、マルチーズが私からボールを奪い取っていく。私は反射的にその後を追うけど、目にも止まれぬスピードでシュートが決まる。

なぜ? どうして? 真悟は私に何をさせたいの!?

「ほら、もう一度っ!」

尚も真悟は私にチャンスボールを投げてくる。でもそのたびに、マンツーマンで張り付いているマルチーズに横取りされる。

「凄いプレイヤーだって聞いていたから期待してたけど、どうやら、勝負有りみたいね」

マルチーズが鋭い一瞥と共に、そう言ってシュート決める。

だめだ。

このままじゃ、私のせいで負ける!

自分の不甲斐なさと、真悟の真意が掴めないもどかしさ。プラス挑戦的なマルチーズの態度。

「ん、もうっ! やってやるっ!」

ウジウジは性に合わないっ! 私は飛翔する子の翔子さんだ!

「行け翔子っ!」

相手のディフェンスを抜けて、ゴールポスト下、真悟が絶好のワンパウンドパス。茶色いバスケボール、ただそれだけを見た。

真悟の声も、歓声も、周りの全ての音が消える――。

どくん、どくん、と高鳴る鼓動。あの夏の日と同じに、高鳴る鼓動。

私の放ったボールは、綺麗な弧を描いてゴールポストに吸い込まれていく。

ピィーーッ!!

高く響くホイッスル。

「ナイス・シューッ!」

え?

「良くやったな翔子!」

真悟が私の頭をぐりぐりかき回す。途端に戻ってくる歓声。

「私……」

シュートが出来たの? 力を制御して?

「その調子で行くぞ翔子!」

真悟の声に、私はあの日と同じように元気に答えた。

「了解!」

遠くからマルチーズが、綺麗なウインクを投げてよこす。

体育館の窓から見上げる空は、何処までも青く澄み渡り、少しだけ滲んで見えた。


―おわり―
▼次ページにあとがき。