翌日。

「昼休みに練習があるから顔出せよ」

真悟にそう誘われたんだけど、昨日の口げんかが尾を引いて、思わず「いかない!」と突っぱねてしまった。

「やっぱ、顔出さないとまずいよねぇ……」

やるべき事をやらないで放置するのは大嫌い――だけど。

「あら? 高瀬さんじゃない」

体操服に着替え、気乗りしないまま体育館へ重い足取りで歩いていたら、またもや背後から声を掛けられた。意味もなく、嫌な予感が胸を過ぎる。

振り返った私の視線の先には、羨ましい位スタイルが良い、栗色の髪もふわふわカールのクリッと大きなお目目も愛らしい、まるでマルチーズを思わせる、背の高い女の子が立っていた。

「クラス対抗球技会、高瀬さん、バスケの選手になったんですってね?」

くすくすくす、と愉快そうに笑う彼女の態度に、なぜかムカッ腹が立つ私。

何が可笑しいんだ。
って言うか、あなたはどなた?

私が訝し気な視線を向けると、彼女は「あっ!」と何か思い出したような顔をしてから、ニッコリ邪気のない天使スマイルを私に向けてきた。

「私は、2年7組の岬麗華(みさきれいか)。女子バスケ部の、副部長をしているの」

「はい?」

「実は、広瀬さんをバスケ部にスカウトしにきたの。坂崎君から聞いたわ。中学の時はエースプレイヤーだったんですってね」

また、真悟か!

「是非、バスケ部に入って欲しいの」

「ごめんね。悪いけど、バスケやる気ないから。じゃ」

やっぱりバスケは出来ない。今、体育館に行ったところで、まともにプレイ出来るはずがない。私はきびすを返して、女子更衣室に足を向けた。

「逃げるの?」

さっきまでとは全然違うドスの利いた低い声に驚いて、私は振り返った。そこには、岬麗華が両腕を胸の所で組み仁王立ちでギロリと睨みを効かせていた。

「分かったわ、こうしましょう。私も球技会のバスケに出るの。もし私達のクラスに負けたら高瀬さんはバスケ部に入る……だけじゃつまらないわね。そうね、私が坂崎君を頂くわ」

「はい!?」

申し出と言う名の挑戦状の内容のあまりのアホらしさに、私は目が点になった。