「私、もう、ダメかもしれない……」

苦し気に、ポツリと呟いた彼女のセリフに、僕は、今までの悪い予感が現実味を帯びてきた事を、感じずにはいられなかった。

彼女の鼓動は途切れがちで、今にも止まってしまいそうに危うい。そう。この所の彼女の体調は、今までになく芳しくなかった。いや、最悪と言って良いだろう。

今までは、激しい運動は出来ないものの、普通の生活が送れていのに、今日はトイレに行くのも大変そうだったのだ。

なのに僕は、それを分かっていながら、ただ現実逃避をし、ひたすら自分の責務を果たす事に没頭した。

「何の為に僕がいるんだい? 君が苦しくなった時、サポートするの僕の役目なんだよ。それが僕の仕事だし、存在意義なんだ。君はそれを奪うつもりかい?」

トクン。

彼女の鼓動が、切なげに高鳴る。

「今まで沢山助けてくれて、ありがとう。なんてお礼を言って良いのか」

そう言って彼女は、透明な笑顔を浮かべた。それは、彼女に残された時間がもう残り少ない事を、僕に思い知らせる。

違う。こんな事が言いたいんじゃない。

「私のせいで、あなたにも迷惑を掛けてしまって、ごめんなさい。もっと元気な人の所に行っていたら、こんなに早く……」

「違うんだ!」

声を詰まらせる彼女のセリフをかき消すように、僕は思わず声を荒げた。

「ごめ……なさい……」

静かに、そして確実に弱まっていく彼女の鼓動は、もう僕のサポートではどうにもならない。僕は、なんて無力なんだ。君を助ける事が出来ないのなら、僕は何のためにこの世に存在するんだ!

「今まで、本当に……ありが……と」

言わなければ。今言わなければ。

「僕は君が好きだからっ……」

声が震える。

「愛しているから、側に居られて幸せだったんだ」

ト……クン。

最後の瞬間、彼女は確かに、微笑んでくれた。

僕と彼女は、一心同体。彼女の命が尽きる時、僕の役目も終わる。そして、僕もまた彼女の後を追うように、自分の全ての機能を停止する。

彼女への、変わらぬ思いだけを、胸に秘めて。

 -了-