クリスマスは好きじゃない。


塞がった筈の古傷がチクリと痛むから。


黄昏時。


賑やかなクリスマス・カラーが流れていく街並みを、私はタクシーの窓からぼんやりと目で追った。


「谷さん? どうかしましたか?」


「え? ああ、今日はクリスマスなんだなぁと思ってね」


急に黙り込だ私の様子を不審に思ったのか、隣に座っている部下の佐々木君が、訝し気に声をかけてくる。


「イブにクライアントと打ち合わせなんて、貧乏くじ引いたね佐々木君」


少しセンチメンタルになっていた心を払拭するように、私は笑顔を作った。


気配り上手で、ムード・メーカー。


彼みたいなタイプなら、彼女を泣かせるような真似はしないんだろう。


「いや、俺は特別予定無いですから。谷さんこそ、女性の方がこういうイベントに燃えるもんでしょ?」


「まあね」


確かに、覚えがあるような。


「彼女、怒ってるんじゃないの?」


セクハラ発言に領空侵犯しているかな、と思いつつプライベートなツッコミをいれると、彼は何故かニヤリと会心の笑みを浮かべた。