「先生。私は、事実が知りたいの。そこら辺にごろごろしている真実なんてものじゃなくて、事実が」

人気のない放課後の屋上に、美希のハスキーボイスが響き渡った。その声には半分以上怒りの成分が含まれているように聞こえる。

放課後の屋上には、まだ十分に強い日差しが情け容赦なく照りつけているが、吹き付ける北風は、心地よさを通り越して冷たい。

その風が、二人の間を乾いた音を立てて通り抜けていく。

高くなった空に広がるうろこ雲が、確実に季節が移り変わっている事を示していた。

「知ってどうするんだ? それが君が欲している答えだとは限らないよ」

前々から、はっきりした性格だとは思っていたが、まさかこうも直接的な言葉で詰問されるとは思ってもいなかった。

少なくとも、俺がただの生物教師ではないと気付いていたことになる。侮れないな、女子高生。

俺は、思わず苦笑いを浮かべた。

それっきり何の言葉も返さずに、抜けるような空をバックに腰に手を当てて仁王立ちしている美希の視線に真っ直ぐ視線を合わせる。

その俺の態度に苛ついたのだろう、美希はすぐ目の前までにじり寄ってきてゴクリと喉を鳴らした後、決意したかのように、ゆっくりと口を開いた。

「あなたが彩花の付き合っていた彼氏? 子供の父親なの?」

腕組みしてジロリと俺を睨み付ける眼光は、さすが女子剣道部の主将なだけはあって、鋭い。

「違うよ」

と言っても信じないだろう。案の定、幾分声を荒げて質問を続けてくる。

「じゃあ、誰なの? 先生は知っているんでしょう? そいつが彩花を殺したんでしょう!?」

「妊娠を苦にした衝動的な自殺。それを信じてはいないんだ?」

「当たり前よ。彩花はそんな子じゃない。例え望まない妊娠をしたとしても命を粗末にするなんて事、絶対にしない」

怒りと悲しみをたたえたその美しい瞳を、俺は眩しさで目を細めながら見詰めていた。