「いいよね、二人も」

「えっ、うん。もちろん! 柚寧がいいなら」
「いこ、いこ」


 柚寧ちゃんが振り向いた瞬間ぱっ、て笑顔を作る友だち二人も、彼女が前を向くと無言でなんとも言えない複雑な顔をつくる。私に有無を言わさない選択を委ねられる。ひとりで行くって言ってくれ。たぶん、そんな感じの圧。


 …なんなのこれ。私が悪いのか。

 わかってるよ別に、あなたたちが私と一緒に行きたくないことも。柚寧ちゃんが言い出して逆らえないんだよね、わかる、わかるけどさ。私一言でも一緒に行きたいなんて言いましたか? 言ってないよね、なら自分たちで言えばいいじゃない。なんでそんな顔で見てくんだ。嫌なら嫌って口に出して言…えないから、こんなことになってんのか。

 ああそう…なるほど、へーなるほどね。


 女子のこういうの、本っ当にめんどくさい。


 唐突に自分の中の頑張るやる気みたいなものがぐん、と削げ落ちてしまって、心の中で長いため息をついて私は左右に首を振る。


「なんで? 視聴覚室まで遠いし、せっかくだから」

「…ありがとう、でもひとりで行く」

「えー、いいじゃん! 遠慮しないで一緒に」

「いいからひとりにしてってば!!」


 思いのほか大きな声が出た。

 一瞬シン、と廊下が静まり返って、そのうち「…こわ、」なんて声がどこからともなく聞こえてくる。

 もうやだなんで。私が悪いみたいになってんの。いや悪いんだけどさ。もうわけわかんなくなってきた。突然声を張り上げたせいで髪がほつれて、少しだけ目の奥が熱くなる。

「…、ごめ、ん」

「…」

「でも、うん、ありがとう大丈夫だから」


 ごめんねって早口で言いはねて、足早にその場を去る。
 あとから考えて見れば、この時無理やりにでもゴリ押しすればよかったんだ。きっとそれが正解だった、だってそのために私は柚寧ちゃんにタオルを返したんだもん。下心ありきでさ。

 それなのにいざその時になったら輪に入るのが怖いって、人目気にしてばかみたい。意気地無(いくじな)し。臆病者。


 本当に自分が嫌になる。
 









「…死にたい」

 自分でも鬱で陰気だねってわかってはいるんだけどまぁそんなこと思っちゃうんですよ、人間だからね、ははは。

 完全に壊れて自分の机にほっぺたをひっつけて過ごす昼休み、半開きの目で雨が頻りに叩く窓の外を見る。