「前はね、球技大会だったからポニテにしてたんだー。いつもは基本ツインテ(こっち)だよ」

「可愛い」

「もー、凛花ちゃん褒めすぎだよ! 私からしたら凛花ちゃんの方が可愛いよ」

「それはない」

「いや本当! 凛花ちゃんあんま周り見ないからわかんないかもだけど、ここだけの話、凛花ちゃんのこと可愛いって思ってる男の子、多いよ」

「!?」

「今だって」

 耳打ちした体勢のまま、彼女がちらと周りに目をやる。私も同じように辺りを見ると、こっちに視線を向けていたクラスメイトの数人が、ぱっと散り散りに顔を逸らした。

 …いや、これ絶対私じゃないでしょ。私と柚寧ちゃんとかいう見慣れない組み合わせに周りがざわついてるだけだ絶対。

「だからもっと自信持ってね。凛花ちゃんは美少女なんだから」

「ゆずーこっち!」

「はいはーい」


 元の友だちの輪に戻る柚寧ちゃんを見送ったら、「いつの間に小津さんと仲良くなったの?」なんて声が背中をつついた。
 「球技大会のときからだよ」、「へー、でも小津さんってさ」まで聞くと耳にイヤホンをさして一気にボリュームを最大にする。

 言われなくてもわかってます。クラスで浮いてて、例えば柚寧ちゃんみたいに明るい子と並ぶにはあまりに釣り合いが取れてないことも。

 音で気絶は出来ないけれど、脳震盪くらいにはなればいい。

 そんな思いで机に突っ伏して込み上げてくる汚い感情は洗い流したはずなのに、なんかもう手遅れだったみたいだ。









「凛花ちゃん、移動教室一緒に行こうよ」


 それは3限目の授業終わりのこと。

 視聴覚室でスライドの授業を受けるのに、いつも通り筆箱と教材を抱えて教室を出たら廊下でばったり柚寧ちゃんと出くわした。

 出会した、というか。

 どうも私のことを待っててくれた、ぽい。

 ね、って顔を傾けると柚寧ちゃんのツインテールが少し揺れて。その時柚寧ちゃんは私を見ているから気づかなかったみたいだけど、その後ろにいた彼女の友だちが「え、」と戸惑ったのに私はちゃっかり気づいてしまった。