6月に入った、夏の頭。

「さよちんおっはー」

「あーりんおはよ~、雨ヤバくない? 髪超濡れたんだけど」

「わかる! シャツびしょびしょだよ~」

 季節は、梅雨になった。

 空は厚い雲に覆われていて、週始まりの月曜は朝から雨が窓を叩き続けている。
 そんな中うちの学校は合服期間に突入し、それまで一貫したセーラー服、そしてブレザーだったクラスメイトは教室を見渡してみても半袖だったり長袖だったりと様々だ。


「おっはよー、諸君!」

 湿気で髪がうねるとか、二倍に膨れ上がるだとか。そんな声をかっさらうように、誰かが教室の後ろの扉から入ってきた。


 柚寧(ゆずね)ちゃんだ。


「おっはよー柚寧。てか待って、雨全然濡れてなくない?」

「うん、パパが車で送ってくれましたー」

「はぁ〜!? めっちゃ羨ましいんだけど!」

「あ、凛花(りんか)ちゃん」


 顔を上げて嘆くいつもの友だちから顔を逸らすと、手を振られる。どうしていいかわからなくてちょっとだけ頭を下げたら、柚寧ちゃんは私の席の方にやって来た。

 球技大会のときとは違って、耳の横でくくられたツインテールは綺麗に毛先までまとまり、やんわりと巻かれている。彼女が私の机に手を付くとそれがぴょん、と跳ねた。ふわり、シャボンの香りが鼻をかすめる。


「おはようっ」

「…お、おはよう」

 真っ向から覗き込まれて、目を(みは)る。だってびっくりだ。誰かに挨拶されたのなんて、高校入学して以来初めてかもしれない。しかもこんな美少女に。

 ちょっとどもっちゃったよ、不自然だったかな。
 なんだか気恥ずかしくてまともに目も見れなくて、視線を床に向けて、また柚寧ちゃんの方を見る。


「可愛いね、髪の毛」

「え?」

「…その、前はポニーテールだったから」
 

 球技大会の日は頭の高い位置でくくっていて、赤いリボンだったからなんか不思議な感じ。私は万年ボブでおろしてるから何も変化ないけれど、髪の長い女の子とかはアレンジ一つで随分印象が変わるものだ。