「つかそれ話題になってる新1年生じゃん」

「え、そうなの」

「男性恐怖症って言うの? 中学ん時突然発症したらしいよ、男に触られたりすると泣いたり戻しちゃったりな。

 お陰でクラスでも男子生徒相手だとあからさまに避けたり、まともに話もしなかったり。まぁそもそも寡黙で根暗で周りと関わり持ちたがらないみたいなんだけど、それで担任がどうしたもんかって頭抱えてんの聞いた。

 えっと…確か名前は…」


 ☁︎


小津(おづ)凛花(りんか)


 廊下を歩いている時だった。

 下校のチャイムが鳴るなり教室を飛び出すクラスメイトたち、そのラッシュと被らないよう、教室で待機することおよそ数分。人がまばらになったのを確認して下校するのが一番自分に合ってると、そんな戦略を覚えたのは入学して3日目のことだった。

 だから改めてまだ人がいたことに、加えてフルネームで人の名前を呼んだのが男の声だったことにびくりと大袈裟に肩が揺れた。


「忘れてたよこれ、プリント」

 立っていたのは男子高校生、二人組。短髪の彼らは私が振り向くと、顔を見合わせて変な笑みを浮かべながらそろりとプリントを差し出してくる。女子に喋りかけちゃった。そんな声が、顔に浮かんで見えたのは気のせいじゃない気がする。

「………ありがとう」

「気をつけろよ、机に置きっぱで、掃除ん時棄てられかけてた」

「それを俺が拾って、な」

「そうそうこいつが、いや俺だよ」

「あ、ばれた?」

 てめえ手柄横取りとか汚ねえぞ! とかなんとか言って揉め出す二人。なんだこのいきなり漫才は。その間も漫才コンビの手に私のプリントは後生大事に握られていて、私は真顔のままそれを見据える。


 するとほとぼりが冷めたころ、改めて一人が後頭部を掻きながらずいっとプリントを差し出した。