「小津さんも、早く藤堂んとこ行っといで。あいつ球技大会の日は引っ張りだこだから、ずっと張ってないと見失うよ」
「…あ、ほんとだ。サッカーでしたっけ」
軽く頷いて、いってらっしゃい、と手を振られる。私はぺこりと会釈すると、走ってグラウンドへと向かった。
グラウンドに辿り着くと、私は青筋を立たせてげっと声を上げた。なぜなら。
「キャアアァア今こっち見たこっち!!」
「いや私の方見たから!!」
「「「藤堂先輩頑張って───!!!」」」
グラウンドを取り囲むようにして、石段には学年問わず夥しい数の女子が、応援に花を咲かせていたからだ。
なんとなく予想はしてたけど。いざ目の当たりにすると、女子たちの熱狂っぷりにちょっと引いてしまう。
その応援勢のせいで先輩どころか、試合の様子は全く見えないし。彼女たちが甲高い声を上げるたび、先輩が活躍している…のは間違いないんだろうけど。
前置きなく飛び上がる悲鳴に一々びくっとして、居心地悪さに両耳を塞ぐ。
「………戻ろ」
「彼氏の姿見ずに?」
その声にギョッとする。振り向くと、保健医の鬼頭先生が少し離れた場所で手招きしていた。辺りを見渡す限り彼女が話しかけているのは私だけみたい。恐る恐るそれに従い、彼女に近寄る。
すると。
「ここからの方がよく見える」
そう言って、木陰の石段の上に誘導してくれた。距離は少し離れるけど、確かに喧騒からは遠ざかるし、建物の影になっているから涼しい。何より、そこへ来て初めて、やっと先輩がボールを蹴っている姿が見えた。
「な、なんで鬼頭先生がここにいるんですか? …もしかして先生も藤堂先輩目当てで」
「バカ。さっき試合中一人が鼻血倒してぶっ倒れたんだよ。顔にボール当たっただけなんだけど、チームメイトが血相変えて運んでくるからやむなくティッシュ突っ込んで手当てして、今しがた終わったとこ」
「そ、その人どこにいるんですか」
「保健室で寝てる」
「…ついてなくていいんですか?」
「鼻血ごときで死にゃしない」
あ、相変わらずのクールビューティ。素敵、かっこいい。
フンと鼻を鳴らして遠くを見る先生にキラキラと羨望の眼差しを向け、ワッとグラウンドが湧いた瞬間、私も試合に目を向ける。
遠くにいてもわかる。背の高い黒髪、10番のビブスを着ているひとが先輩だ。彼は相手チームの選手を軽快にかわすと、あっと言う間にシュートを決める。ピンチヒッター、と呼ぶには余りにも主戦力になっていて、周りは彼に頼りすぎなんじゃないかとすら、思う。



