ごく、と息を呑み、自分から話しかけておいて私が目を白黒させるからか、常葉さんは不思議そうにしている。
「あ、あの、それだいぶ前に3年の…と、藤堂先輩に、常葉さんが、渡したやつ」
「…どうして小津さんが持ってるの?」
「そっ」
そう、なるわな、普通…。
聞かれるってわかってたはずなのに、喋りかけることに気合いを入れすぎて、答えを用意するのを忘れてた。
でも、これどこから説明すればいいんだろう。変にはぐらかして安斎先輩の時みたく、誤解が広まるのも違う。
私が今ここで逃げたら、その矛先は私だけじゃなく、先輩にも向かっていく。
それだけは、わかりきったことで。
それで先輩が私のために笑うのも、知ってしまったことで。
そんなのはごめんだ。
私は覚悟を決めて、深く息を吸って、それから思いっ切り吐き出す。
「……もう多分知ってると思うけど…私、お、男のひと、駄目で…その克服に、先輩が、手を貸してくれてて…それで」
嘘は意味がない。はぐらかしてもバレてしまう。この程度のことはきっと、もう学校中が知っている。でも私が認めるのはきっと初めてだったと思う。
それを話す相手がまさか初めて話すクラスメイトだとは思わなかったけれど。もごもごと口籠って吐き出した言葉は、胸の内で燻っていた時よりずっと、鮮明でさっぱりしたものだった。
床の一点に逸らしていた視線をちら、と彼女に向けてみる。すると常葉さんも小さく答えた。
「…そっか」
「、」
「ありがとう。球技大会、頑張ろうね」
顔を上げた私に、彼女の可愛い顔がくしゃっと潰れる。笑った。笑っても可愛い。その言葉に少し頬を染め、小さく頷くと、彼女は私に手を振ってぱたぱたと駆けていった。
☁︎
そして、試合が始まった。
ビーッというブザー音と共に、選手たちが一斉にフロアに散らばる。
初戦は、バスケ部三人とバレー部二人で構成されているというC組チームとだ。「声出していこう声、」というチームメイトの投げかけに、私は相手チームの一人をマークし、パスを取らせないよう守備を固める。