そこまで言って、はっと我にかえる。

 まずい。口が滑った。慌てて片手で口を押さえる私に、遠くで立っている先輩の眉が、ぴく、と反応した気がする。いや、多分気のせいじゃ、ない。

「こ、こないで、ちょっと!」

 途端、先輩が笑顔でこちらに歩いてくるから青ざめてボールをぶん投げたのに、片手で受け止められてしまった。


「オズちゃあああん?」

「もっ、ももも元はと言えば先輩が悪いんじゃないですか! タオル返す口実で友だちになれとか、そんなことで悩んでなければ今頃」

「小津凛花」

「っ!」

 早口でまくし立てる私の言葉を遮った先輩が、目の前でじっと私を見下ろす。縮こまったまま恐る恐る見上げると、ボールをごつん、と額に当てられた。


「…いや、俺が悪いな、オズちゃんに友だちが出来たらそれがいいって、焦って強引になりすぎた」

「…そ、そうですよ、だから私」

「明日」

「え」

「明日の大会、俺の出番終わったら女バス見に行くから。試合中、一本でいい、シュート決めろ。そんでオズちゃんはその子にタオル返すこと」

 女バスの勝利と友だち作りで、ここ一週間付き合った俺へのお礼はチャラ、と先輩は顔を傾ける。

「出来なければ一週間昼飯代ゴチになりまーす」

「…そっ、そんなの無理、」

「やる前から無理言うな」

「だってっ」

「返事は?」


 ずい、と踏み込まれると、相手の影に覆われて暗くなる。至極整った顔の上に乗っかった凄みのある笑顔に、鬱陶しいほどのいつもの優しさは、見えない。


「…は、はぃ」

「決まりね」

 にぱ、と笑うと、そろそろ帰りますかー、と何事もなかったようにボールを片付けに行く先輩を目で追う。一方私は、腰が抜けてへなへなとその場に座り込んだ。

 な、なんてひとだ。強引な自覚ある癖に、最後強制するなんて。
 だからばくばくばく、と早鐘を打つ心臓を抑えながら私は涙目で吠えた。


「先輩の鬼!!」